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「この町には宿屋なんぞございますかしら?」 「さあ、この町にはどうかね。あつたにしても、探すのは骨だね。なんしろ、街道まで出にやならんが、これも道がやゝこしいですよ。倉庫ばか、あつちこちに 建つとつてね。近ごろはそれも進駐軍が使つとつて、滅多なところは通れんし……」 ――では、こゝで夜明しをするよりほかないのか、と思うと、彼女は泣き出したくなつた。淋しいとか、薄気味がわるいとか、そんなことよりも、この恰好 で、この吹きさらしのバラック建の駅のベンチの上で、すぐそこにいるはずの夫に声さえかけず、眠るにも眠られぬ長い一夜を、火の気もなしに過さねばならぬ ということが、これこそ今の自分の境遇を露骨に思い知らされている感じでひし/\と胸にこたえる。 三 これに比べると、あの五月二十五日の空襲で高円寺の家を焼かれる前後、もう命はないものと覚悟をきめて焼夷弾の雨の中を右往左往し、やがて警報解除が鳴 つて、わが家の焼跡をはう煙のなかで、まる一日夫の帰りを待つたあの当時の方がまだしも心に張りつめたものがあつた。 見渡すかぎり黒々と焦げ散つた「街」の残骸を夕やみがおゝう頃、あの日、夫の一徳は軍刀のつかをいつものように左手で握つて、さもそれは予期したことだ といわぬばかりの悠々たる足どりで帰つて来た。オーダーカーテン 東京
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