海に千年河に千年

 山形屋の若主人宇部東吉は、四万五千円の持ち金を、この二週間のうちにすつかり使ひ果して、しよんぼり、上野動物園の熊の檻の前に立つてゐた。  今日の午後、カフエー白百合の女給薫子のところへ、どうしても五千円都合して行かねばならぬ。御徒町はすぐ眼と鼻の先である。こゝからそこへ行くまで に、五千円が湧いて出る道理はない。この熊の皮でも、はがせるものならはがしたいほどである。せめて、パチンコですつた金が、いまこゝにあれば、と、あの 心ををどらせる流行競技が恨めしくなつた。  熊の皮はあきらめるとして、なんとか、この懐しいけものの顔を眺めてゐるうちに、いゝ智恵が浮かばぬものか。あのねんごろをきわめた、いぢらしい薫子の 風姿と、あのむせるやうな肌の匂ひを想ふと、自分の幸福は、あの山奥の街道の上にはなく、この東京といふ大都会のまんなかにあつたのだと、つくづくそれに 気のつくのが遅かつたのを悔むばかりである。  この前、十月に東京へ出たとき、仕入先の青年に誘はれて、何気なくはいつたカフエーに、彼は、その次の機会に、今度はひとりで、ふらりと寄つてみる気に なつた。むろん、最初にビールを運んで来て、しばらくそばに坐つてゐた女給の顔が妙に頭にこびりついてゐたからである。そこで、二度目に、彼は、その女給 の名を覚え、すこしばかり自分のことを話し、おそるおそる彼女の郷里はどこかとたづねた。ところが、それは偶然、山形であつた。彼は、小をどりせんばかり に悦び、実は、自分の店も山形屋といふので、両親は山形の出身であると、つい、知りもせぬことを言つてしまつた。変形性膝関節症おすすめサプリご紹介サイト!

Ven 30 mai 2014 Aucun commentaire