海に千年河に千年
相馬 (起ちあがり)ぢや、仕方がない。僕は学校から手を引かうか? 登志子 (キッとなつて)同時に、あたしからも? 相馬 お望みなら……。 登志子 (淋しげに)待つてちやうだい。あたしは脅迫されてるのかしら? 相馬 …………。 登志子 たしかにさうだわ。ここへ来て、あなたが学校から手を引けば、どういふことになるの? ただあたしをすてるつていふんなら、まだ話はわかるわ。 相馬 うるさいなあ。 登志子 いいえ、話はちやんとつけませうよ。いまこそ、あたしも眼がさめたわ。あなたがもし、あたしつていふ女に用がなくなつたつていふんなら、あたし は、泣いて、泣いて、あなたに取り縋るかもしれない。あたしのどこが気に入らないのか、それもいつてもらふわ。できてもできなくても、わるいところはなほ すわ。あやまれといはれればいくらでもあやまる。 食堂の方で女生徒たちの哄笑。盛んな拍手。 でもねえ、あたしがちよつとなんかいつたからつて、学校から手を引かうか……そんな卑怯なおどしかたつてないわ……。 相馬 君に協力する意志がなければ、やむを得ないさ。 登志子 協力ですつて? 相馬 金策方面にだつて、君の協力は時として必要な場合もあるさ。 登志子 そんなことわかつてます。どういふ協力が必要なの? あなたのいふ協力つていふのは、色仕掛けのことぢやないの。それは真つ平だつて、あたしは いつただけよ。 相馬 そんなつもりぢやないつて、僕はいつただけだよ。よしんばさうであつても、君は、それを笑つてすまされないかい? 登志子 そこがあなたとあたしの違ふとこだわ。あなたには、あたしつていふ女がまだわからない? 相馬 だから、わかつたから、もうそれでいいぢやないか。 登志子 あたし悲しいの。とても悲しいの。そこにゐるあなたは、もう、きのふの朝までのあなたぢやない。(ハンカチで眼を蔽ふ) SEO対策無双