海に千年河に千年

登志子  それごらんなさい。ううん、それだけぢやない。どうかした眼附でちよつとなんとかしてみせろなんていつたぢやないの。あたりがやはらかだつていふのは、いつたいどういふこと? お金を出させるのに、あたりがやはらかい必要があるの? 相馬  あるさ。君には、それに類した経験がある筈だ。八坂君のトントン拍子の昇進の裏には、君の政治的手腕があつたことは周知の事実だ。 登志子  それとこれとは話がちがふわ、八坂の場合は、ただ細君同士で話が通じるんだわ。 相馬  軍の参謀長が吉林栄転に肩を入れたつていふのは? 登志子  あの人はうちへ前々からお酒を飲みに来て、勝手に、おれが引受けたつていつただけよ。 相馬  とにかく野暮なことをいはずに、あつさり会つたらいいぢやないか。自分の学校のことを相談するんだから、堂々とやつたら? 登志子  あなたの云ひ方が気に入らないの。いひ方ぢやないわ。そもそもの考へ方だわ。あたしを見てゐるあなたの眼が、それでわかるんだもの。 相馬  ぢや、どうしても会はないね。 登志子  会ひません。 この時、食堂の方で、賑やかな拍手の音。 作業着

Lun 5 mai 2014 Aucun commentaire